フォーカル・ジストニアに共通してみられるのが虫様筋(ちゅうようきん)の機能不全。

フォーカル・ジストニアについて

虫様筋


起始:第2指~第5指の深指屈筋腱(掌側)
停止:第2指~第5指の指伸筋腱膜(背側)

虫様筋は指先で物を摘まむ動作=MP関節(第3関節)を曲げながらPIP関節(第2関節)とDIP関節(第1関節)を伸ばすという動きをする。
大きな力を発揮する筋肉ではないが、センサーの働きがあり、緻密な動きや微妙な力加減のコントロールをしている。

虫様筋は楽器の演奏で最も重要な筋肉といえるが、小さく繊細な筋肉なので酷使すると機能不全をおこしやすい。
虫様筋が機能不全をおこすと、代わりに浅指屈筋(せんしくっきん)が働いてPIP関節を曲げて楽器を演奏するようになる。

このように、本来の動作を行うことが出来なくなった場合に、別の機能で補って動作を行うことを代償動作という。

浅指屈筋


起始:上腕尺骨頭・橈骨頭
停止:第2指~第5指の中節骨底

浅指屈筋は第2指~第5指のPIP関節を曲げる。
鉄棒を握るときなどに力を発揮する。
力はあるが楽器の演奏のような繊細な動きには向いていない。

フォーカル・ジストニアの代償動作


物を握る動作では、本来写真左のように虫様筋(MP関節)が主導で動く。
フォーカル・ジストニアでは、写真中央のように浅指屈筋(PIP関節)が働いて物を握るようになる。
楽器の演奏でも本来は虫様筋(MP関節)が主導で弾いていたものが、フォーカル・ジストニアになると代償動作として浅指屈筋(PIP関節)を使った弾き方になる。

浅指屈筋による代償動作では、緻密な動きや力加減が難しくなるので、今まで弾けていた曲が弾けなくなる。
代償動作に気付かずに練習不足のせいだと思い込んで必死に練習すると、浅指屈筋に過度の負担が掛かり、指の巻き込み(PIP関節が勝手に曲がる)の原因になる。
同時に脳が代償動作を記憶してしまい、虫様筋を使った正しい動きが追いやられてしまうという悪循環に陥る。

虫様筋の機能不全による浅指屈筋の代償動作は、PCでキーボードやマウスを使い手指を酷使する仕事にも見られ、キーの打ち間違いや誤クリックの原因になるが、楽器の演奏ほどの激しさや緻密さを必要とされないため致命的にはならない。